アパートの明渡し時の原状回復問題については、これまでにも再三お話をしていますが、2月6日報道されたように、東京都において原状回復問題と敷金返還問題について独自に条例を設けることになりました。東京都の予定では、2月中には条例案を会議に提出し、年内の施行を目指しているとのことです。具体的な条項は、議会での議決がなされ成立したものをみなければ議論できませんが、貸主側と借主側との修繕費等の負担区分について明確にすることが目的とのことです。
このような動きは、敷金の返還をめぐるトラブル相談が急増していることや、大阪地区で行われている集団での敷金返還請求訴訟等にみられるように、退去時の修繕費についてこれまで約定(主として入居者負担)の効力そのものが見直されていることからきています。上記条例案が可決されると、同様の問題を抱える他の都市部においても条例化される可能性もあり、全国の地方自治体の試金石となりそうです。
ところで、この退去時の原状回復問題について公的な機関が設けている基準としては、国土交通省住宅局が平成10年3月に作成した「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」があり、同ガイドラインは平成16年2月には裁判例などを追加して改訂されています。このため、おそらく東京都の条例も、基本的なところは上記ガイドラインにそった内容となるものと思われます。そこで今回は、このガイドラインの内容を引用し、解説させていただきます。また、東京都の条例が可決されたときには、改めて詳しく述べさせていただく予定です。
このガイドラインの基本的な位置付けは、以下のとおりです。
(1) 賃料が市場家賃程度の民間賃貸住宅を想定
(2) 新たに賃貸借契約を締結する際の参考として
(3) 締結済みの賃貸借契約については、一応現在の契約書が有効なものと考えられるので、契約内容に沿った取り扱いを原則とする。但し、内容があいまいなときなどはガイドラインを参考に話し合う
ガイドラインでは、これらの基本的位置付けのうえで、具体的な解説をしています。その内容は・・・。
1. トラブルを未然に防止するために、契約時に原状回復についての条件をよく確認して納得の上契約するだけでなく、原状回復問題を入居の時点から始まる問題と考えて、「退去時だけでなく入居時にも部屋の状況や損耗等の有無を確認しておくこと」が必要であるとしています。
2. ガイドラインのポイントとしては、以下の項目が上げられています。
(1) 原状回復の定義として、原状回復は、賃借人が借りた当時の状態に戻すということではなく、「賃借人の住居、使用により発生した建物価値の減少のうち、賃借人の故意・過失、善管注意義務違反、その他通常の使用を超えるような使用による損耗・毀損を復旧すること」とし、その費用は賃借人負担としています。
他方、いわゆる経年変化や通常の使用による損耗等の修繕費用は、賃料に含まれるものとしています。
(2) そして、「通常の使用」の一般的定義は困難であるため、具体的な事例を次のように区分して、賃貸人と賃借人の負担の考え方を明確にしました。
A: 賃借人が通常の住まい方、使い方をしていても、発生すると考えられるもの
B: 賃借人の住まい方、使い方次第で発生したり、しなかったりすると考えられるもの(明らかに通常の使用等による結果とは言えないもの)
A(+B): 基本的にはAであるが、その後の手入れ等賃借人の管理が悪く、損耗等が発生または拡大したと考えられるもの
A(+G): 基本的にはAであるが、建物価値を増大させる要素が含まれているもの
上記のうち、B及びA(+B)については賃借人に原状回復義務があるとしています。
(3) さらに、前記BやA(+B)の場合であっても、経年変化や通常損耗が含まれており、賃借人はその分を賃料として支払っているので、賃借人が修繕費用の全てを負担することとなると、契約当事者間の費用配分の合理性を欠くなどの問題が生じる。賃借人の負担については、建物や設備の経過年数を考慮し、年数が多いほど負担割合を減少させるのが適当である、としています。
(4) また、原状回復は毀損部分の復旧ですから、可能な限り毀損部分に限定し、その補修工事は出来るだけ最低限度の施工単位を基本としていますが、毀損部分と補修を要する部分とにギャップ(色あわせ、模様あわせなどが必要なとき)がある場合の取扱いについて、一定の判断を示しています。
上記したガイドラインの考え方は、裁判例においても浸透してきており、これまでのように契約自由の原則として自由に取り決めができるという状況ではなくなってきております(賃借人に不利な条項として無効という判断になります)。
いずれにしても、基本的な考え方は東京都の条例案も同様の考え方によるものと思います。上記したガイドラインの改定版は、定価900円(税込み)にて財団法人不動産適正取引推進機構(TEL03-3435-8111)にて公刊されておりますので、より詳しく知りたい方は、ご一読されてはと思います。