入居者が夜逃げしたときどう対処すればよいか?
長引く不況下で、リストラや倒産などにより職を失った人が、再就職もできず日々の生活にも困るというような話が多く聞かれます。このような状況はアパート経営にも影響をおよぼし、賃料不払いや債権取立を恐れて夜逃げしてしまうといった事態も起きています。賃料不払いの場合の対処法はこれまでにもお話しましたので、今回は、もし入居者が夜逃げ(無断退去)をしてしまったときの対処方法についてお話します。
Ⅰ 契約書等の充実
夜逃げのような場合は、入居者が契約解約の手続きをとらずに所在不明になる場合が大半と思われます。賃貸借契約については、合意で解約をするか、債務不履行を理由に解約しない限り終了しません。夜逃げをされるような時は、既に賃料も滞納し催促も幾度となく入居者に対しされていることが多いでしょうし、また、契約書に「○ヶ月以上滞納したときは催告をしないで直ちに解除できる」といった条項を定めていることも考えられます。解約の意思を入居者に伝えれば、賃貸契約は終了させることができます。もちろん、これは書面でなく口頭でもかまいませんので、もし、夜逃げをする前に口頭ででも入居者に「これまでの賃料不払いで解約する」とか、「○日までに支払わなければその日で解約とします」といった話をしていれば、話をした日、あるいは、その期限の日をもって契約は終了したことになります。解約の通知は、通常は配達証明付の内容証明郵便の方法で行いますが、これはあくまで入居者に対して間違いなく解約の意思表示をした、ということを証明しやすくするための方法であり、口頭では解約できないということではありません。

それでは、解約の意思を伝えていなかったときは、どのように対処すればよいのでしょうか。ひとつは、夜逃げをするということは、貸借人としての地位あるいは権利を放棄したことになり、当事者の一方がいなくなったことにより契約関係も終了する、という考え方があります。ただ、そこまでの解釈はできないという考え方もあり、例えば契約書の中に「正当な理由なく連絡先を告げず○ヶ月以上所在不明となったときは、所在不明になった時をもって解約したものとみなす」というような規定を盛り込み、その規定を適用して解除を主張するという方法もあります。ただし、この方法も、上記の期間をどれくらいにするかにより、長期の出張や旅行の場合と区別がつきにくく、万全とはいえません。 このため、法律的に確実な方法としては、公示による意思表示という手続き(民法97条の2)があります。これは、通常は裁判所の掲示板に契約解除するという書面を掲示するとともに、掲示したことを官報及び新聞に少なくとも一回掲載するという方法です。 しかし、解約することができたというだけでは、貸室を他に貸すことはできません。というのも、ほとんどの夜逃げの場合、身の回りのものしか持ち出さないため、貸室内に荷物が残されています。このため、この荷物を何とかしないことには他の人に貸すことができないのです。そこで、この点について次にご説明します。
Ⅱ 残された荷物の処理
契約書に、入居者が行方不明になったときは、大家さんが荷物を「適宜処分できる」というような約定を書いていても、その規定を根拠に処分することは、「自力救済の禁止」(裁判等法的手続きにより解決しなさいということ)に違反することになります。そのような処分は、法律上は認められていません。このため、残された荷物を勝手に大家さんが処分すると、後で入居者から損害賠償の請求を受けることもあります。 そこで、現実的な解決方法のひとつとしては、連帯保証人に連絡をして荷物を引き取って預ってもらうという方法です。ただし、連帯保証人には、未払家賃等の金銭の支払義務はありますが、荷物を引き取る義務まで法律上あるわけではないため、あくまで話し合いにより預かってもらうしかありません。しかし、部屋の明渡しが遅れるほど連帯保証人が負担すべき賃料相当損害金が増えていくことになるため、話がまとまる可能性があります。この方法による場合、入居者が後日現れたときのためにも、必ず荷物をすべて引き取りましたという内容の書類を、連帯保証人から受け取っておく必要があります。 また、連帯保証人が上記のような合意をしないときなどは、裁判を起こして判決により部屋の明渡しを行うほかありません。この場合は、裁判所の執行官がすべての手続きを行いますので、大家さんが明渡しについて責任を問われることはありません。ところが、これを大家さんがご自分で行ったりすると、たとえ、荷物を別の場所に保管していたとしても、後で大事な物がなくなったなどと言われて、入居者から損害賠償請求を受けたり、その対応に苦労することになりかねません。その点、大家さんのような当事者ではなく、中立の立場であり公務員でもある執行官が行った場合は、そのようなクレームが認められることはまずありません。
【文:鴛海量良氏/公認会計士・税理士】





