
vol.25 契約者と住人が違う場合の対処法
佐瀬正俊氏
(弁護士)
「供託」という言葉をご存じですか。言葉は知っていても、どんな制度なのかを知っている方は少ないのではないでしょうか。今回は、「供託」の法律的な意味と、アパート経営における供託にまつわる問題について取り上げてみます。
家族だけが住んでいる場合
入居時から家族と同居している人もいるでしょうし、契約の途中から家族を呼び寄せるなどして同居するというような場合もあります。いずれの場合も、契約者の家族として入居しているときは、契約者の契約上の権利が、家族がそこに住むことができる根拠となるだけであり、たとえ家主さんが家族の同居を最初から承諾していたようなときでも、家族が契約者とは別に住む権利を持つということではありません。このため、契約者が家賃を支払わずに契約を解除されると、家族もそこに住む権利はなくなり明け渡さなければなりません。
また、家族が出て行かない場合は、明渡しを求める訴訟を起こすほかないわけですが、その場合、訴訟の相手方(被告)にするのは契約者だけであり、家族を被告とする必要はありません。訴訟のための書類送付先も貸室(被告の住所)宛てに出すことになります。契約者が家を出て家族にも行方がわからないような場合もありますが、このような時は、貸室を被告の住所として裁判を起こしても、契約者がいないからと受け取らないこともあります。しかし、住民票を調べて転出先もわからないとか、契約時などに聞いた勤務先等に送っても退職などで被告に届かない場合でも、裁判を続けることはできます。このようなときは、契約者の所在がわからないことから、裁判所に設置されている掲示板に裁判に関する書類を公示することで被告に対し届いたものとして裁判手続を進めることができます。この手続は「公示送達」(こうじそうたつ)と呼びます。この手続で裁判を進めるときには、家主さんが主張する契約解除が正当であるということを証拠や証人などで証明しなければなりません。相手方(被告)が裁判所からの書類を受け取りながら裁判に出てこないときとか、出てきても家主さんの言い分を全部認めたようなときは、証拠や証人が不要であるのとは異なり、多少の手間がかかることになります。
そして、契約者を被告として明渡しを命ずる判決を裁判所に出してもらえれば、その判決に基づいて貸室にいる家族の人全員に対しても、明渡しの強制執行をすることができます。
まったく知らない人がいるとき
契約者や同居家族がいなくなり、見知らぬ人が貸室に入り込んで、家主さんが尋ねても「契約者から頼まれて留守番をしている」などといって出て行かないケースが現実にあります。このようなときには、まず、相手の言い分が正しいのかどうかが問題となります。知人等に留守番を頼むということが絶対にありえないとまではいえず、契約者が見つからない限り確認のしようがありません。ただ、本当に留守番であるという場合は、通常は契約者の方も家主さんに説明しておくとか、契約者と連絡が取れるというのが通常です。このような説明もなく連絡も取れないというようなときは、いわゆる金融業者などが契約者に対する債権の回収の方法の一つとして、家賃を払わずに無償で業者の関係者を部屋に住まわせるということも考えられます。したがって、契約者やその家族がいなくなったようなときはできるだけ早く対応する必要があります。
その場合、入居している人が本当に契約者から頼まれた留守番などであるのか否かについては、家主さんはあまり考える必要はなく、契約者に対する裁判手続を進めればよいのです。その中で、例えば裁判所からの契約者宛の書類を貸室にいる人が受け取るようであれば、その人は契約者から頼まれている人と考えられ、訴訟手続を進めることができます。そして判決が出れば、上記1の家族の時と同じように入居者に対し明渡しの執行ができます。また、書類を受け取らないのであれば、契約者の家族でも、依頼を受けた人でもないということになりますので、貸室には無断で入ったものと推測できます。このため、そのような場合は、警察に住居不法侵入の疑いがあるということで、対処してもらうことになります。この場合、入居者の氏名がわからなくとも警察は犯罪の疑いがあるとの理由で、直接入居者に職務質問するなどして明らかにできますし、不法侵入かどうか(住む住居にいる権利があるのかどうか)についても調査できます。なお、家主さんとしては、その場に立ち会うなどして、相手方の氏名を確認して、不法占拠者であるという理由で明渡し訴訟を起こすなどの対応をすることになります。

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