
vol.7 入居者のプライバシー保護と家主さんの権利の関係は?
佐瀬正俊氏
(弁護士)
アパート経営をしていると、入居者のプライバシー保護か、家主さんの権利か、どちらかを優先すべきか難しい局面に出くわすことがあります。
例えば、入居者が賃料を支払わないとか、他の入居者からクレームがくるような行動をしたり、部屋の使い方をしている、といった場合、家主さんや管理を委託されている不動産業者は、どこまで実力行使できるのでしょうか。
特に、賃料を督促しても払ってもらえないような場合、どんな方法で対処すれば入居者のプライバシー保護に触れずに済むのでしょうか。今回は、このような場合の対処法についてお話します。
勤務先に電話、あるいは訪問して督促するのはOKか?
入居時には、入居者の勤務先を確認するでしょうから、勤務先に督促の電話をかけたり、訪問するということもできないことではありません。
しかし、その際、入居者が賃料の支払を滞納しているとか、家主さんと話をしないなどといったことが、勤務先の人に解ってしまうようなかけ方(電話を取り次いでもらうときに説明するなど)や、訪問の仕方は問題があります。また、相手方が電話を取る場所によっては、「待ってください」とか「必ず払います」などと電話口で答えるだけでも周囲の人から不信がられこともあります。
他方、賃料不払いは、第三者には知られたくない内容です。その意味では、プライバシーの一部といえるでしょう。したがって、不注意により、そのことを第三者が知るような状況を生じさせると、プライバシーの侵害という問題になりかねません。しかし、勤務先などへ電話をかけることや、訪問すること自体が直ちにできないとか、するべきでないということではなく、そのかけ方、話の仕方等に十分注意をして前記のようなプライバシー侵害といわれるようなことのないようにする必要があります。
これと同じで、もし貸室宛に送っても「受け取り拒否」するとか、「留置期間満了」で内容証明郵便が戻ってくるというときであっても、勤務先に督促の手紙を出す場合には、手にとった人が簡単に見ることができる葉書で出すことや、封筒で出すときでも表書きや裏書からすぐに内容がわかるような記載(「請求書在中」とか「督促状」など)はしないほうが良いでしょう。
張り紙をするのはOK?
入居者が賃料を支払わないとか、管理規約などを守らないというときに、ドアなどに張り紙をして督促することや注意することは簡単であり、一見、入居者に対して効果がありそうに見えます。
しかし、その張り紙を、ドアなど他の入居者や、第三者である訪問者または配達関係の人などの目にふれるところに貼ることは、やはり入居者のプライバシーの侵害となりかねませんので、避けるべきです。
ちなみに、貸し金業者などが、ドアに督促状を貼りつけたりする行為は、貸金業に関する法律により、"違法な取立行為"として禁止されており、違反すると罰則が適用されることになっています。これは、もっぱらプライバシーの保護ということから規定されているものです。
部屋に入ることは可能か?
部屋に入って、室内に張り紙をすることや、督促状を直接おいていくようなことは、ⅠやⅡに書いた意味でのプライバシーの侵害はありませんが入居者の室内に入るという点でプライバシーの侵害ということが生じます。いうまでもなく、室内は入居者の生活そのものであり、第三者に見られることが当然というものでありません。そのため、家主さんといえども、入居者に無断で貸室内に入ることはできないのです。
ところで、契約書で「管理上必要な場合」とか「一定の場合に立ち入りできる」ときめていることもあります。しかし、想定しているのは、貸室内でガス漏れや失火、その他の異常があるとか、その疑いが高いというような場合で、一般的に見て建物全体の管理上必要であるといえるような場合です。
このようなときに、「入居者の同意が無ければ鍵をあけて室内に入ることは駄目だ」とすることは、他の入居者の人命や財産、あるいは家主さんの建物等に被害を生じかねないため、貸室内へ入ることが許されるのです。確かに、賃料滞納や面談拒否といったような問題は、もちろん重大なことなどですが、「プライバシーの侵害」という問題と比較したときには、プライバシーの保護が優先されるのです。

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